近年、自然に還る葬儀として注目を集めている自然葬。従来の墓地や納骨堂とは異なり、樹木葬や海洋葬など、さまざまな形式があります。この記事では、そんな自然葬の基本的な知識や、種類別の特徴、料金相場、注意点を解説します。
自然葬とは?
自然葬とは、故人の遺骨を自然に還す葬送方法の総称です。
従来の墓石を建てる形式の葬儀とは異なり、樹木や海、山などの自然の中で故人を弔うため、環境に優しい葬儀方法として注目を集めています。
自然葬の特徴は、永代供養の形で故人を見送ることができる点にあります。墓じまいやお墓の承継の問題に悩まされることなく、また、将来的な管理の負担も最小限に抑えられることから、核家族化が進む現代社会のニーズに合った葬送方法と言えます。
そんな自然葬の具体的な方法としては、樹木の根元に埋葬する樹木葬や、火葬後の遺骨を細かく砕いて海や山に撒く散骨などがあります。近年では、桜や椿、楓などの樹木の下に埋葬できる樹木葬墓地も各地で整備され、また海洋散骨を専門に扱う葬儀社も増加傾向にあります。
自然葬が注目されている理由
近年、自然葬を選択する方が増加しています。この背景には、社会構造の変化や価値観の多様化、そして環境への意識の高まりがあります。
まず大きな理由として、少子高齢化による家族構成の変化が挙げられます。核家族化が進み、お墓の継承者がいない、もしくは継承者に負担をかけたくないという考えを持つ方が増えています。従来の墓石を使用した供養では、年間の管理費用や維持費が必要となります。しかし、自然葬ではそうした継続的な費用負担がありません。
また、環境保護への意識の高まりも自然葬が注目されている大きな要因です。墓石の建立には大量の石材が必要となり、その採掘や加工、運搬の過程で環境負荷がかかります。一方で、自然葬は環境への負荷が少なく、自然に還るという考え方に基づいているため、環境意識の高い方々から支持を得ています。
さらには、経済的な観点からも注目されている理由が挙げられます。一般的な墓石建立では、100万円~300万円程度の費用が必要となりますが、自然葬の場合は比較的低コストで実施することができます。特に樹木葬は、30万円程度から選択できる場合もあり、経済的な負担が少ないことが特徴です。
このように、社会的な背景や個人の価値観の変化などから、自然葬への関心は今後さらに高まることが予想されます。特に、シニア層だけでなく、若い世代からも「自分の最期はこうありたい」という具体的なビジョンを持って、自然葬を選択する方が増えてきています。
自然葬の種類
自然葬には、大きく分けて「埋葬」と「散骨」という2つの方法があります。
埋葬
自然葬における埋葬は、遺骨を自然の中に埋める方法です。一般的な埋葬との大きな違いは、永代供養墓や一般墓のように、石材を使用した墓石を建てないことにあります。代表的な方法として「樹木葬」があり、遺骨を木の根元に埋めることで、生命の循環の一部となることを目指します。
埋葬の場合、一度埋めた場所から遺骨を移動することは難しく、その場所が将来的に開発されるなどの可能性もあります。そのため、永代使用権のある樹木葬墓地を選ぶことがおすすめです。また、自然の中での埋葬とはいえ、墓地として許可された区域で行なう必要があります。
散骨
散骨は、火葬後の遺骨を粉末状にして自然に還す方法です。海や山、空といった自然の中に遺骨を撒くことで、故人の魂が自然と一体化することを願う葬送方法となります。散骨には、海洋散骨、山林散骨、空中散骨などの方法があり、それぞれに特徴があります。
また、散骨を行なう際は、粉骨という工程が必要不可欠です。火葬後の遺骨を細かく砕いて粉末状にすることで、自然環境への影響を最小限に抑えることができます。
さらに、散骨を行なう場所には法的な制限があり、私有地での実施には土地所有者の許可が必要です。特に海洋散骨の場合、漁業権の設定されている区域や航路を避ける必要があり、山林散骨では水源地や人家の近くを避けるなど、場所選びには細心の注意が必要です。そのため、多くの方が経験豊富な専門業者に依頼して実施しています。
自然葬の主な形式
自然葬には主に4つの形式があります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
樹木葬
樹木葬は、遺骨を土に還し、その上に樹木を植えて供養する方法です。一般的な墓石を建てる代わりに、木々に囲まれた自然の中で眠ることができます。近年では、東京都青梅市や千葉県印西市、神奈川県横浜市などで樹木葬墓地が増えています。
樹木葬には個別型と集合(合同)型があります。個別型は、1本の木に1人(または1家族)が埋葬され、集合型は1本の木の周りに複数の方が埋葬されます。個別型では、サクラやモミジ、ケヤキなど、好みの樹木を選ぶことができる施設も多くあります。
海洋葬(海洋散骨)
海洋葬は、船で沖合まで出て遺骨を海に散布する方法です。東京湾や相模湾、伊勢湾など、多くの海域で実施可能です。
海洋葬を行なう際は、航行する船舶や漁業活動に支障が出ないよう、港から一定以上離れた場所で行なう必要があります。また、環境に配慮して、遺骨は完全に粉状にし、花びらや造花など自然分解されないものは使用しないことが推奨されています。
山林散骨
山林散骨は、山や森林で遺骨を散布する方法です。富士山麓や八ヶ岳、軽井沢など、多くの自然豊かな場所で実施されています。ただし、私有地や国立公園内など、散骨が制限される場所も多いため、事前に確認が必要です。
山林散骨では、遺骨を風に乗せて散布する方法が一般的です。周辺の自然環境や他の来訪者への配慮から、決められた区域内で行ない、目立つ形での散布は避けることが望ましいとされています。
空中散骨
空中散骨は、小型航空機やヘリコプターを使用して上空から遺骨を散布する方法です。日本では、太平洋上空などで実施されています。地上や海上からは難しい場所での散骨が可能となり、故人の希望に沿った特別な送り方ができます。
空中散骨を実施する際は、航空法や気象条件などの制約があります。また、散骨する場所の真下に民家や公共施設がないことを確認する必要があります。そのため、専門の業者に依頼することが推奨されています。多くの業者では、遺族が同乗できるプランが用意されています。
自然葬それぞれの料金相場
自然葬の料金は、形式によって大きく異なりますが、一般的な仏式の葬儀と比較すると、全体的に低予算で実施できることが特徴です。ここでは各形式の料金相場について見ていきましょう。
樹木葬の料金相場
樹木葬の料金は、一般的に20万円~100万円程度が相場となっています。都市部の人気霊園では100万円を超えることもありますが、地方の樹木葬墓地では20万円程度から始められるケースも少なくありません。
料金の内訳としては、永代使用料が15万円~80万円程度、管理費が年間1万円から3万円程度となっています。しかし、近年では管理費が無料の樹木葬も増えています。
海洋葬(海洋散骨)の料金相場
海洋葬の費用は、プランによりますが、基本的に10万円~30万円程度です。こちらは参列人数や船の貸切の有無、出航場所によって料金が変動します。たとえば、東京湾での小規模な海洋葬であれば15万円程度から実施可能です。
神奈川県や千葉県の人気スポットでは、20名程度の参列者がある場合、25万円前後が一般的な価格となっています。遺骨の粉骨作業や追悼セレモニーなどのオプションを加えると、35万円程度まで費用が上がることもあります。
ただし、業者に散骨してもらうプランの場合、10万円以下で依頼できることが多いです。
山林散骨の料金相場
山林散骨は、15万円~30万円程度が一般的な価格帯です。人気のエリアでは、基本料金が20万円前後となることもあります。料金は、場所や参列人数、追加サービスによって変動します。
散骨のみの最もシンプルなプランでは15万円程度ですが、追悼式や供養、記念樹の植樹などのオプションを加えると、料金が上がります。また、遠方での実施の場合は、スタッフの交通費や宿泊費が別途必要になることもあります。
空中散骨の料金相場
空中散骨は、比較的新しい自然葬の形態で、30万円~60万円程度が相場となっています。小型飛行機やヘリコプターをチャーターする必要があるため、他の自然葬と比べると高額になる傾向があります。
基本的なプランでは、遺骨の粉骨作業、飛行機やヘリコプターのチャーター料、スタッフ人件費などが含まれています。参列者の人数によって機体の大きさを変更する必要があるため、料金が大きく変動することがあります。また、天候による延期なども考慮する必要があります。
どの形式においても、事前に見積もりを取得し、含まれるサービスの内容を確認することが重要です。また、追加オプションや必要経費についても、業者に詳しく確認することをおすすめします。
自然葬をするなら専門家への委託がおすすめ
自然葬を検討される方の中には、費用を抑えるためにご自身で行おうとする方もいますが、結論、専門家への委託がおすすめします。その理由としては、法的な規制や手続きの複雑さ、そして実務的な難しさが挙げられます。
特に散骨の場合、漁業権や航行安全の観点から制限される海域があり、これらの知識がないとトラブルに発展する可能性があります。また、山林散骨においても、私有地や国立公園での散骨は禁止されているため、適切な場所の選定には専門的な知識が必要です。
業者は、散骨に関する規制を熟知しているだけでなく、遺骨の粉骨や運搬、当日の天候判断など、様々な実務的なノウハウを持っています。また、故人や遺族の要望に沿った自然葬を実現するための提案力も備えています。
そのため、専門家への委託は、よりよい自然葬を行なううえで、重要な選択肢となります。
自然葬の流れ
最後に、自然葬の全体的な流れをご紹介します。
自然葬の形式を選定する
まず最初に行なうのが、自然葬の形式の選定です。樹木葬や海洋葬、山林散骨、空中散骨など、さまざまな選択肢の中から故人の希望や遺族の意向に沿った形式を決定します。その際、予算や季節、実施場所への交通アクセスなども考慮に入れる必要があります。
特に樹木葬の場合は、人気の霊園では予約が取りにくい場合もあるため、早めに検討することがおすすめです。また、海洋葬を選択する場合は、気象条件なども考慮する必要があります。
業者を選定する
形式が決まったら、次は信頼できる業者を選定します。業者選びの際は、必ず複数の会社の見積もりを取り、サービスの内容や料金を比較検討することが大切です。経験豊富な業者であるか、必要な許認可を取得しているか、アフターフォローは充実しているかなどを確認しましょう。
特に散骨を行なう場合は、法律に則った適切な手続きを行なえる業者を選ぶことが重要です。たとえば、海洋散骨であるなら、一般社団法人日本海洋散骨協会などの業界団体に加盟している業者を選ぶと安心です。
葬儀・火葬する
自然葬の前には通常の葬儀と火葬を行ないます。葬儀は簡素な家族葬から一般的な葬儀まで、故人や遺族の希望に応じて選択できます。火葬後は、埋葬または散骨までの間、遺骨を一時的に保管することになります。
散骨の場合、火葬後、遺骨を粉骨する
散骨を行なう場合は、火葬後の遺骨をさらに細かく砕く粉骨という作業が必要です。この作業は専用の機械を使用し、専門業者が行ないます。
なお、遺骨は全てを散骨に使用する必要はなく、一部を手元に残すことも可能です。その場合は、分骨証明書を取得しておくことをおすすめします。
埋葬または散骨する
最後に、選択した形式での埋葬または散骨を行ないます。樹木葬の場合は、選択した樹木の下に専用の容器に入れた遺骨を埋葬します。海洋葬の場合は、船で沖合まで出て、決められた海域で散骨を行ないます。
山林散骨の場合は、自然公園法や国有林野の管理経営に関する法律など、関連法規に従って実施します。空中散骨の場合は、ヘリコプターなどから散骨を行ないますが、これも法律や地域の条例に従って適切に実施する必要があります。
自然葬の実施後は、故人を偲ぶための慰霊碑や記念樹を設置したり、記念写真を撮影したりすることも可能です。また、多くの業者では、実施後の証明書の発行も行なっています。
まとめ
自然葬は、従来の墓石を建てる形式とは異なり、自然に還る形で故人を送る新しい葬送方法です。樹木葬や海洋葬、山林散骨、空中散骨など、故人の希望に寄り添った選択肢が豊富にあり、費用面でも一般的な墓石建立と比べて経済的です。しかし、それぞれの形式で制限やルールがあったり、環境への配慮が必要であったりするため、専門の業者に依頼することをおすすめします。これからの時代に合った供養の形を考えている方は、ぜひ自然葬という選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。